Carpathia III: Episode 7 - ねじれた森


ねじれた森

カオルは、無限に広がっているように思える森の中を、すでに何日も歩き続けていた。 当初、暗黒のワームホールを通り抜けるという恐ろしい旅行の末に、木のこずえに落ちて来た時、まずとりあえず、ギャラ・フォン(宇宙電話)を試してみたのだが、電波を拾えない事に気づいた。 そしてその後は、遠くに行かない方が見つけてもらえやすいのではと期待しながら、数時間の間、その場に留まった。

だが、救助の可能性はありそうもなく、空腹と喉の渇きを感じるようになり、どこに行くべきかも分からぬまま、出発した。 木々は、カオルがそれまで見たことのあるものとは、全く違っていた。 多くは、ねじれてグロテスクな形状をしていたが、中には、幹が巨大なカブに似ているのがあったり、その他の木々も、知らないものばかりだった。 そして、自分はどこかの未知の惑星にいるのだという恐怖感をより大きくさせているのは、オレンジ色の土壌と、体の内側から焼けるような感じがするほどの息苦しい暑さだった。

飢えと渇きが酷くなるにつれ、パニックに陥りそうだった。 いつになったら、食物や水を発見できるのかは、知る由もなかった。 多くの木々が、果物のようなものを、枝からぶら下げているので、食物を得るのは、おそらく、問題ないだろう。 だが、食べても大丈夫なのがあるかどうかは、まだ、分からなかったので、「一か八か」になるのだが。 結局、体力が消耗してきたので、一番うまそうに見える果物をもぎ取ることにした。 リンゴのように固めで赤く、大きさも同じくらいだったが、キウイフルーツのような産毛が生えていた。 ポケットナイフを取り出し、固い果実に切れ込みを入れると、果汁豊富な赤色の果肉が現れた。 鼻を近づけると、甘くみずみずしい匂いがした。 すべてがうまそうに思えたので、一口かじってみると、匂いどうりに、とても美味しく、カオルは喜んだ。

食べながら、木にある大きな爪痕に気づいた。 それは明らかに大型動物によるものだったが、その考えに、自ら怯えた。 しかし、爪痕の深いみぞから、液体が染み出し落ちていることにも、気づいた。 一滴、指にとり、舐めてみた。 水のようだった。 再び、ポケットナイフを取り出し、深く穴を掘ると、内部の秘密部屋にまで到達したような手応えを感じた。 水がしたたるように流れてきた。 果実を横に置くと、出来るだけ沢山の水を手のひらで受け止めて飲んだ。 飢えと渇きを癒すという当面の問題が、森の中で簡単に解決できたので、充足はできたものの、その一方で、木に残された獰猛な爪痕は、まだ遭遇していない動物がこの森にはいるのだと思い知らされるには、充分だった。

何日、森の中を歩いているのか、日数を数えることができなかった。 ニュー・ベレンガリアの何処よりも、昼間の長さがはるかに長いように思えたので、疲れた時はいつでも眠った。 歩いている時に、時折、大きな動物の気配を感じたり、薮の中を走り回る音を聞いたりしたので、いつも、大きな木を見つけて登り、その太い枝の上で、眠った。 長い昼間に高い木の上で寝ることも多く、とても心休まるようなものではなかった。 うっかり枝から地面に転げ落ちるかもしれないと慎重にもなり、深く眠り込まないようになっていた。

起きている間は、森の中を歩き回り、木から果物を摘み、木の幹から水を飲んだ。 以前は、時折、友人たちの名を叫んで呼んでいたが、一度、その叫び声のせいで、クマのような動物が姿を現し走り去っていった事があったので、大声で自分の居場所を知らせるは、あまり良い考えだとは思わなくなった。 やがて、遠くの方から聞こえて来る低い轟音を、意識するようになった。 進めば進むほど、轟音はより大きくなり、それが滝の音だと、より深く確信できた。

滝があれば、水があるのは明らかなので、音に向かって、断固とした決意で歩いた。 何日もの間、木々と垣間見えるオレンジ色の空以外、何も目にしていなかったので、もし仮に、文明を見つけられなかったとしても、少なくとも、風景を見渡せる事を、願っていた。 轟音が大きくなるにつれ、カオルは、だんだん興奮してきた。

と突然、「パンッ」という大きな音がし、その直後、脚を蹴られたような感じがした。 そして、地面に転がり、苦痛のあまり、のたうち回った。

カオル: ギャーッ!!!

自分の太ももを見ると、裂けた傷口から血が吹き出していて、怖くなった。 それと同時に、慌てて近づいて来る足音が、聞こえた。

女性の声: あっ、あぁぁっ、大変っ! ほんとにっ、ごめんなさい!!

その声を聞いて、ある種の獰猛な動物が持つ特殊な防御本能的な発射攻撃かなにかではなかったのだと知り、カオルは安堵した。 少なくとも、逃げる方法を心配する必要は、なかった。 彼は出血を止めようと、手で太ももを締めたが、それはあまり効果が無かったので、包帯の代わりになるようなものはないかと、周りを探し始めた。

ちょうどその時、若い女性が、大きな旧式のライフルを手に、現れた。 その女性は、先の部分が尖った非常に長い耳をしていて、カオルは、なによりも、その耳に、ひどく驚いた。

若い女性: ほんとに、ごめんなさい! てっきり、動物だと思ってしまって!

その若い女性は、自分のバッグからタオルを引っ張り出し、カオルの傷の周辺部分を覆うように縛った。 きつく引っ張っると、カオルは、痛みで声を上げた。

少年: ねえ、クイリオン! 今度は、何をやらかした?

若い女性は、木に座っている少年に向かって、降りてくるよう身振りで合図した。 その少年は、10才か11才くらいで、その女性と同じ耳と同じような顔つきだったが、それ以外にも、2人には何か共通点があるようだった。

クイリオン: レウリ。早く降りてきて、手伝ってよ!

少年は、器用に木から飛び降り、驚くほど静かに地面に着地した。

レウリ: あーぁっぁー、人を撃っちゃったんだー。 ママとパパ、カンカンになるよーっ。

若い女性は少年を無視して、カオルに目を向けた。

クイリオン: 心配しないで。私の家はここから遠くないので、ママとパパが、ちゃんと手当するわ。 あなたの名前は何?

カオルは、痛みに歯を食いしばりながらも、話そうと努力した。

カオル: カオルだ。

クイリオン: 私はクイリオンで、この子は弟のレウリ。 私の肩を使って立ち上がれそうだったら、私の家まで、あなたを連れていけるんだけど。 できると思う?

Kaoru: あぁ、できそうだ。

クイリオン: レウリ、彼の足をつかんでてね。

レウリ: オッケーッ。

レウリはカオルの足首を掴んでぐらつかないように固定し、クイリオンはカオルの腕の下に自分の腕を滑り込ませ、カオルの大丈夫な足の方に重心を掛けて立ち上がらせた。

クイリオンがカオルを支えながら、三人は一緒になって、ゆっ​​くりと滝の近くの家に向かって、森の中を進んで行った。

つづく。。。

本エピソードのイラスト委託作成:
Miyumon
Iniphineas
Jenova87

「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。
「滝」(「SimCity 4」より)画像加工: Jporter

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