悪影響

ドラコニス・コロニー、森

帰りの道のりは、長かった。 新種や珍種を発見しようと夢中になっていた頃は、時間は早く進み、距離的にも、思っていたよりもかなり進んでしまったようだった。 彼らの最重要課題がリュウと一緒に戻るという事に変った今、帰路は永遠に続くように思えた。

全く面白みがなかったわけではないが、かなり平凡なハイキングとなった。 カオルとマフィは、2人だけの会話を続けていたが、話の内容は、誰も知りたいとは思わないような中身のないくだらないものだった。 リュウは、ゴミ箱資料からは調べがつかなかったトッキ人について学ぼうと、トーマのすぐ傍らを羽ばたいて飛び回っていた。

ミタニは後に続いたが、自身の身の安全を守るため、ジェイズから目を離さなかった。 アデルは、ジェイズと一緒に歩いていた。 アデルは、殺人計画を少なからずも再び試みようとしているジェイズの尻尾を、きつく握りしめていた。

ジェイズ: 僕の尻尾、もう、放しても大丈夫だよ〜。

アデルは、ジェイズがそう言った時、彼の顔を見ようともせず、歩き続けた。

アデル: 絶対、ダメだね。

ジェイズ: もうしないって約束するよ〜っ!

アデル: さっきも同じ事言った後で、ネージュの顔を、二回もはぎ取ろうとしただろ。

ジェイズ: トーマにタバコをあげたりするからだよ!

アデル: 一本だけだったんだし、トーマはその半分も、吸ってなかったんだ。 それほど過保護になる必要はないだろ。 トーマは、そこまで子供じゃないし、、、

とその時、疾風迅雷のごとく、アデルは、進行方向とは逆の方角に叩き付けられた。

ジェイズ: ミャ〜オーッ!

ジェイズは、アデルによる拘束からの離脱とミタニの顔面排除を同時に行うため、全身全力で、ミタニに向かって跳びはねた。 しかし、アデルがしっかりと掴んでいたので、結果としてアデルとジェイズの2人共、地面に伏すこととなった。

ジェイズ: おっとっ! これは、アザになるかもねー、、、

ミタニは、顔に歓喜の表情を浮かべ、ジェイズを見おろした。

ミタニ: ハッハッハ!

アデル: 黙れ、ネージュ! 役立たず!

アデルにとって、なぐさめとなったのは、カオルの声だった。 彼は前方を指差していた。

カオル: みんな! やっと見えてきたよ!



ドラコニス・コロニー、ドラコニス公園

一行は、疲れてふらふらした足取りで丘を上り、折り畳み式の大型テーブルの前で学生たちの帰還を待っている生物学の先生のところにたどり着く一歩手前で、さらに、最後となる勾配を登った。 先生は助手とおしゃべりしていて、アデルたちの方には背を向けていた。 彼ら以外に、生徒は誰も、周りに立っていなかった。 どうやら、最初に戻ったグループのようだった。 アデルは、安心した。 ジェイズは、先生の目の前では、何もしようとしないだろう。

アデル: ヴォルテール先生。 僕たち、戻りました。

ヴォルテール先生は、振り返って見ようとはしなかった。

ヴォルテール先生: 森の中で、ひと騒ぎあったようだが。 君たち、喧嘩でも、してたのか?

アデル: いいえ、先生。 僕たちの作業は、完了しました。

ヴォルテール先生: ふ〜む。 それにしても、早かったな。 では、君たちの収穫を見せてくれ。

タイミングよく、リュウが、ずしんと轟くような音と共に、ヴォルテール先生の前のテーブルに、着陸した。

リュウ: コンチヮ!

一瞬、ヴォルテール先生の目は、リュウの目に、釘付けになった。

ヴォルテール先生: なんて、こ、こ、こっ、、ゴッ、ゴル、ゴルゴンゾーラ!

“ドッシン”

そして、椅子から、ころげ落ちた。

アデル: ゴルゴンゾーラ?

カオル: たぶん、チーズ好きなんだろうね。

リュウは立ち上がってゆっくりとテーブルの端まで歩いた。 ヴォルテール先生を上から見おろしながら、くんくんと空気を吸った。

リュウ: 男子人類か女子人類か、確認してもいいですか?

アデル、カオル、ジェイズ: ダメーッ!!

リュウ: そう、ですか。。。

ヴォルテール先生は、ふらふらと立ち上がると、服の汚れを払い落とした。

カオル: それで、ヴォルテール先生、これで、合格点ですか?

ヴォルテール先生:えっ、えっと、、、ああ。 ハハ。 上出来だ。 それで、ちょっと話してもいいかな、君、名前は?

リュウは前足を差し出した。

リュウ: リュウです!

ヴォルテール先生は、ためらいがちに手を伸ばし、リュウと握手した。

ジェイズ: 僕たちも、彼と一緒にここにいても、いいですか?

ヴォルテール先生: もちろん、いいとも。 結局のところ、君たちが彼を見つけたんだ。 それとも、、、彼が、君たちを見つけたか。 まあ、とにかく、まだ私が知らない事を、いろいろ教えてくれ。

ミタニ: 俺は、パス。 俺の役目は終わったぜ。 もう、ホテルに戻るからな。

ジェイズがミタニに向かって怒鳴ろうとした頃には、すでに、ミタニは皆に背を向け、道路に向かって歩き始めていた。

ジェイズ: いなくなってせいせいするよーっだ!

後に残された彼らは、リュウとヴォルテール先生のいるテーブルに、少し近づいて行ったが、その時、アデルは、カオルに小声で話しかけた。

アデル: この学校に来て1年になるけど、ずっと変な事ばっかりだね。

カオル: ほんと、そうだよな。


2週間後

ニュー・ベレンガリア、ルーン・レイク地区、ルーン・レイク高校

その日最後のクラスが終わりに近づき、生徒たちは帰宅するのが待ちどうしかった。 ドラコニス・コロニーから帰ってきたのは、ほんの数日前だった。 彼らのほとんどが、ドラゴン発見の事を、考えていた。 アデル、カオル、ジェイズ、トーマの4人は、コロニーでは、リュウとずっとおしゃべりしていたので、今は、リュウがいないのが寂しかった。 その一方、ジェイズは、別のことも気になっていた。 帰ってきてから、一度も、トーマの姿を学校で見かけず、一体どこにいるのだろうか、とういうことばかりを考えていた。

ヴォルテール先生: 来週には、今回の旅行実習の評価を、出すつもりだ。 明日は、月『スサノオ』の継続的崩壊と、海洋生物に対するその影響、他の月による補整、について論議を始めるから、しっかりと予習してくるように!

ヴォルテール先生が言い終えるやいなや、終業ベルが鳴り、生徒は皆、立ち上がって持ち物をかき集めると、すぐに教室を出て行った。 アデルとミタニは一緒に外に出た。 アデルは、空高く登るスサノオを、見つめた。 彼の両親は、空に二つの満月を見るのはどんな感じかとよく言っていたが、彼が覚えているのは、一つの満月とスサノオの残存破片だった。 自分の人生を通して、スサノオがゆっくりと分裂崩壊していくのを観察するのは、彼にとって、興味深い事だった。

アデルが、その月の姿にぼーっとしていると、突然、肩にパンチを喰らった。

アデル: わっ!

アデルは、咄嗟に、体の向きを変えた。 「注意散漫時に肩パンチ」というミタニ考案のおふざけゲームを、やられてしまった。

ミタニ: ハッ! ボケッとしてると、痛い目にあうぜ!

アデル: ネージュ、それ、嫌いだって言っただろ!

カオルとジェイズが、校舎の出口から一緒に現れたが、各々の魅力的ないつもの同伴者が、不在だった。

ミタニ: 今日は、マフィはいないのか、カオル?

カオル: 別れたんだ。 あの子って、あんまり頭が良くないような気がし始めてきたんだ。

ミタニ: ウソだろっ!

ミタニの声に皮肉が込もっていたのに気づかない者はいなかっただろうが、カオルは気づかなかったのか、それか、ただ、無視していた。

カオル: それよりも、トーマのことが心配だな。

皆は、ジェイズの方を見た。 彼は、寂しそうに地面を見つめ、両耳は頭の両側にだらしなく垂れ下がっていた。

ジェイズ: 旅行から帰って来てから、トーマには、一度も会ってないんだ〜。 電話に、でてくれないんだよ。 玄関にも、出てこないし。 どうしたらいいんだろー。

ミタニが、事も無げに、歩道の先を指差した。

ミタニ: あんなとこに、いるぞ。

皆は、同時一斉に、ミタニが示した方向に向いた。 トーマは、確かに、学校のグランドのすぐ外の歩道に立っていた。 彼は、ひどい有様だった。 顔は、まるで、緑いろの薄い陰で覆われているように見え、普段とは違う眠たそうな両目と垂れ下がった両耳が、その顔色を強調していた。 4人は、ジェイズを先頭に、すぐにトーマに近寄って行った。 トーマは塀の向こう側に立っていたので、彼らからは、トーマの胸より下は見る事ができなかったが、近づいて行くうちに、渦を巻きながら立ち上がる白い煙が風に吹き流されるのが見え、不安がつのってきた。

ジェイズ: トーマ! 大丈夫なの? すごい顔色してる!

トーマ: 気分が、すごく悪い。

ジェイズは自分の疑念を確かめようと、塀の向こうを覗いた。 トーマは、腰の辺りで、タバコを手にしていた。

ジェイズ: タバコ、どうして、吸ってるの?

トーマ: 自分でも分からない。 止めれないみたいなんだ。

アデル: 気分が悪いのは、きっと、タバコのせいだよ。 どんな影響が出るか、分らない。 まだ、ほんの数日間だったとしてもね。

ジェイズ: やめれる内に、やめないとダメだよ。 そんなにたくさん吸ったわけじゃないよねー。

トーマ: たくさんでは、ないと思う。 「4、、なんとか」だよ。 多いのか?

アデル: タバコ、4本? だったら、全然、大丈夫じゃないかって、思うけど。。。

トーマ: そうじゃなくて。 4本じゃない。 どう呼ぶんだったかな? カートン。 そうだ、4カートン。

暫くの間、皆は、信じられなく、呆然とした。

アデル: 4カートン?!?

ジェイズ: って、いつからの話?

トーマ: 3日前からだよ。 多いかな?

ジェイズ: 3日間で、4カートン??

アデル: それは、、、多すぎるどころじゃないよ! 気分が悪いのは、当然だ!

ジェイズ: 父さんに電話するよ。 ネコミ研究所の所長してるんだけど、そこに、リハビリ施設があるんだ。

ジェイズは、少し離れてから、ギャラクシー・フォンを取り出すと、カバーをスライドさせた。 番号を入力すると、画面とキーパッドの青色の光が、彼の手を照らした。

カオル: トーマ。そのタバコ、吸っちゃだめだよ。

トーマは、瞬時に後ずさりして横を向くと、手にしたタバコをカオルから遠ざけた。

トーマ: 僕のだ!

後ろで、ジェイズが、受付の係と会話しているのが聞こえた。

ジェイズ: もしもし、ええ、ティアと話をしたいのですが、、、僕の名前は、ボンドです、ジェイズ・ボンド。 ティアは僕の父で、、、ええ、待ちます。

つづく。。。

本エピソードのイラスト委託作成:
Miyumon
Catnappe143
Kurama-chan
Atomic-Clover

「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。

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