ドラゴン、ドッキリ!
ニュー・ベレンガリア、ルーン・レイク地区、ルーン・レイク高校
いつもと同じ退屈な一日の終わりだった。 トーマは、リハビリ施設ですでに1週間を過ごし、トッキ人とネコミ人それぞれ最高の専門家たちの治療により、急速に快方に向かっていた。 それにもかかわらず、ジェイズは、落ち込んだままで、周りの者の気分をも沈めた。 ジェイズは、この1週間で3度、数時間ほど、トーマとの面会をしたが、それだけでは充分ではなく、一日中、ほとんどいつも意気消沈した様子で、両耳を顔の両側に濡れタオルのように、だらりと垂らしていた。 アデル、ジェイズ、ミタニ、カオルの4人は、校舎裏のテーブルを囲み、放課後に何をするかという、いつもの無駄話をしていた。
カオル: じゃあ、隣の屋台で、ホットドッグでも、食べよっか?
ジェイズが、テーブルを見つめたまま、言った。
ジェイズ: 何も、食べたくないな〜。。。
皆は、ジェイズに対して不満がつのり、小言を言った。 彼らはジェイズに同情してはいたが、ずーっと続く彼の落胆ムードには、限界だった。 ジェイズは、たとえ皆の小言が聞こえたにしろ、気にしているようではなかった。
アデル: 君を一人きりで残して行きたくないけど、こんな状態を続けていくのは無理だよ。
ミタニ: あいつが何もしたくないんだったら、俺たちには、どうしようもないな。 もう、行こうぜ。 来たかったら、来るだろ。
アデルが、いつも無神経な態度のミタニに文句を言おうとした時、ポトッという音と共に、小さなハンドバッグが、テーブルの中央に置かれた。 皆が顔を上げてみると、リュウが目の前に座っていて、驚かされた。 ジェイズでさえ、この1週間で初めて、トーマの事が頭から離れた。
リュウ: コンチヮ!
しばらく呆然とし、皆は、リュウを、ただ見つめていた。
リュウ: どうしたのですか? もう、わたしのことを忘れてしまった?
アデル: ははっはっ。。。 そうじゃなくて、ただ、ビックリしたんだ。
カオル: こんなに早く、入国許可がもらえたなんて、信じられないよ。
リュウ: 労働査証(ビザ)を、くれました!
リュウは自分のハンドバッグを開けると、中をゴソゴソとほじくり返し始めた。 ミタニは、椅子に座ったまま、背をそらせて両目をグルリと回していたが、他の3人は、期待に胸を膨らませながら、見守っていた。
ジェイズ: こんなにかわいくて小さなハンドバッグ、今まで、見た事ないよーっ。
リュウは、ようやく探していたものを見つけると、ニコリと笑って、カードを取り出した。 カオルが、そのカードを手に取ると、目を通し始めた。
アデル: すごいね、ほんとに、査証、出してくれたんだ。 でも、君に、どんな仕事を用意してるんだろ?
リュウ: イキリブリアの科学部局が、わたしの火炎放射能力を研究したいんです。 その他の研究も、お手伝いしますよ。 機械よりも、わたしのほうが、炎をコントロールするのが、早くて簡単にできますので。
アデル:って、君、ほんとに火炎放射できるの?
リュウ: わたしを信じないんですか?
アデル: ドラコニスでは、見せてくれなかったから。
リュウ: 聞いてくれなかったからです。 あなた達が行ってしまってから、すごく特殊な能力だと気づきました。
カオルは首を傾(かし)げ、まだ手に持ったままのリュウの査証カードに、しかめっ面をしていた。
カオル: これ、間違ってるよ、絶対。 この誕生日の日付だと、君、274歳ってことになる。
皆、寄り集まって、今一度、リュウの査証に目を向けた。
リュウ: そうです!
カオル: カルパティの年単位で?
リュウ: そうです! 仕事をするには、少し若すぎるんですが、自信があります。
カオル:少し若いって、でも、君、1882年に生まれたんだよね!?
リュウ: そうなんです。 大人の体つきになるには、400年くらいかかります。
アデル: って言うことは、今は、まだ大人の体型じゃないの? どれくらいの大きさになるまで、成長するの?
リュウ: あなた達の計量単位ですと、37メートル程ですね。
唖然とした沈黙の数秒間が、過ぎた。
アデル: そうなったら、すっごく大きな家に、住む必要があるよねー。
そんな奇想天外なイメージを、頭に巡らせている時間は、彼らには、あまりなかった。 聞き覚えのある狂気じみたあの声が、その時、聞こえて来たからだった。
アルテミス: なんてことだ! これほどのすばらしい物を目にするのは、初めてだ。
興奮しながら周りを見回していたリュウ以外、皆は、その声が誰かを知っていた。
リュウ: 今の声は、誰ですか?
リュウは、声の主の姿をとらえようと、きょろきょろと探し続けていたが、その声の主は、あまりにも早い速度で猛ダッシュしてきたため、リュウには、対処する暇がなかった。 リュウは、飛び去ろうと翼を広げ宙に浮いたが、無駄な試みとなった。
リュウ: キャーキャー!!!
アルテミスは、テーブルの上にさっと跳びあがり、一瞬で、空中のリュウを掴んだ。 そして、着地すると、器用に回転受身してから、静止した。 すると、すぐに無我夢中で、リュウをあらゆる角度から押したり突っついたりして、調べ始めた。
アルテミス: 信じられない! このようなものは、一度も、見たことがない! 軽いのに、がっちりしていて、敏捷性と強度のバランスが絶妙だ!
リュウ: 降ろして! 降ろして! さもないと!
アルテミスは、リュウの翼の一つを引っ張って調べ、それから、リュウの口をこじ開けると、中を覗き込んだ。
アルテミス: まるで、小さなドラゴンみたいに見えるな! 君は、ドラゴンなのか? 火か何かを、吐いたりするのか?
リュウは話そうとあがいたが、アルテミスが彼の口を開けたままにしていたので、困難だった。
リュウ: ひょ、ひょ、ろして! しゃも、、にゃいと!
リュウは、深く息を吸った。
リュウ: “ゲホッ、コホッ、ゲッホッ”
何かぬるぬるした小さな塊が、リュウの口から吐き出され、アルテミスの膝に上に落ちた。 アルテミスが、気持ち悪がって手を放すと、リュウは、すぐに、テーブルの上に飛び戻った。
アルテミス: おぇっ、これは何だ? ドラゴンの毛玉か!?
ミタニ: ハ、ハッ! バッカッーなドラゴン!
リュウは振り返ると、ミタニに怒りの視線を送ったが、その次に自分に何が起きるのかをコントロールできなかった。
リュウ: “ブァー”
“ふ〜っ”
ほんの瞬間の、しかし強烈な火柱が、リュウの口から立ち登った。
ミタニ: わっ、わーっ! シャツに火がついた!!
少しためらった後、アデルは、スポーツバッグからタオルを取り出すと、それで炎をおおい消した。 火が消えると、火傷してはいないかと、ミタニの胸を調べた。
アデル: 服は、ちょっと焦げたみたいだね。 君自身は、大丈夫かな?
ミタニは、リュウを、おどすように睨みつけた。
リュウ: 申し訳ありません。
ミタニ: これは、お気に入りのシャツだったんだぞ!!!
ミタニはリュウに掴み掛かろうとしたが、アデルがミタニを押し戻した。
アデル: ネージュ! あれは、事故だったんだ! リュウは、働いてるんだから、きっと、弁償してくれるよ!
ミタニは、渋々、引き下がった。 彼は向きを変え、リュウとアデルから顔を背けると、自らの怒りにもがいた。
リュウ: 弁償します。 ごめんなさい。
アデル: ほら、言っただろ? リュウは仕事を持ってるし、当分の間はどこにも行かないしさ。 君は、新しいシャツ、手に入るよ。
ミタニ: そうだな。 この惑星には、必要なんだな。 奇妙なエイリアンに、生物や民族の遺伝子を不純物でめちゃくちゃにさせるのが。
カオルと、ジェイズ、アルテミスは、ミタニに対し嫌気がさし、にらみつけた。 アデルは怒りが沸き上がった。 彼は立ち上がると、皆から顔を逸らした。
アデル: 2人だけで、話がしたい。
アデルは、ミタニが自分の後をついてくるかも確認せずに、歩いて行った。 ミタニは、目をグルリと廻すと、別館校舎裏の人気のない場所まで、アデルについて行った。
アデル: 一体、あれは、何だよ?
ミタニ: はぁ?
アデル: 「遺伝子を不純物でめちゃくちゃ」って。
ミタニは、また、目をグルリとした。
ミタニ: おまえは、過剰反応してるぞ。 リュウの事を、言ってただけだぞ。
アデル: それなら、その事を、ジェイズとアルテミスにも言わないと。 君の心を読めるわけじゃ、ないんだから。 それに、「不純物」って言われて、嬉しいわけがない。
ミタニ: 言っただろ。 ジェイズとアルテミスの事じゃない、って。
アデルは、ため息をついた。 アデルには、この会話の行き着く先も、これ以上続けても無駄だという事も、もう分かっていた。
アデル: みんなに、君の行動を説明するのは、もう、うんざりだ。 君のせいで、今度はどんな恥ずかしい気持ちにさせられるのかと、心配することにも、うんざりしてる。 責任感も、全く、ないよね。 トーマがリハビリを受けてる原因の一部は君にあるのに、そのことにさえ、まだ謝っていない。
ミタニは、胸の上で、腕を組んだ。
ミタニ: ちょっと、まてよ! 俺が、あいつに、そうさせたんじゃ、ないぞ。 あいつが、俺に、タバコをくれって、頼んできたんだぞ。
アデル: 君は、トーマに、タバコは健康に悪くて中毒性があるって、言ったのか?
ミタニ: いいや、だけど、、、
アデル: やめておいた方がいいって、忠告したのか?
ミタニ: まあ、いや、そうだな、、、
アデル: 僕が言ってるのは、そうゆう事だよ!
アデルは、ミタニが言い返す言葉を考えている間、深呼吸した。
アデル: あのさあ、もう、お互い、会わないのが、一番いいと思う。
ミタニ: はぁ?
アデル: 君を、愛していない。 好きでもない。
ミタニ: 嘘だ!
アデル: しばらくの間は楽しかったけど、子供時代の思い出だけで、僕たちの関係を維持できないよ。 僕たちは、違いすぎてるし、僕の人生に必要なのは、君じゃない。
ミタニ: 俺たち、違いすぎては、いないぞ。
アデル: これが、僕たち両方にとって、一番いいよ。 僕は、僕の「不純物」友達のところに戻るから。 ついて来ないでくれ。
アデルは向きを変えると、ショックで目を大きく見開いているミタニを残し、歩き去った。 ジェイズ、カオル、アルテミス、そして、リュウが、話し合っているのが見えた。 アルテミスとリュウの初顔合わせは、かなりのハプニングだったのにもかかわらず、2人は、互いに対して、フレンドリーになっているようだった。
彼らに近づいて行くにつれて、アデルは、自分が、自分のある部分を捨て、残りの部分で自分を再構築したのだと、強く認識してきた。 彼が行く距離は、人生の、ある過程での旅路のようだった。 古き良き友と新たな可能性が待っている場所に向かっての、何か新しい事に向かっての、人生の転機だった。 アデルが彼らのすぐ近くまでくると、皆がアデルに気づいたので、アデルは、出来るだけ明るく微笑もうとしたが、それには大失敗した。
カオル: アデル、大丈夫かい?
アデルには、気持ちをしっかりと保ち続けるのは、長い間は無理だと分かってはいた、が、カオルの言葉を聞いた途端、涙が頬を流れ落ちた。
アデル: 僕たち、別れたよ。
ジェイズは、同情があふれ出て、すぐに駆け出すと、アデルに飛びつき両腕でしっかり抱きしめた。 理由は違っていたが、それぞれ、各々のボーイフレンドと引き離された2人は、しばらくの間、固く抱きしめあった。
ジェイズ: 気分、楽になってきたかな?
アデル: 少しね。ありがとう。
リュウ: うーっん、わたしも、ハグしたいけど、小さすぎます。
アデルは、涙を流しながらもくすくすと笑って、両手を差し出した。
アデル: 大丈夫。 僕たち人間は、ちょうど君みたいな、モフモフで暖かい小さい生き物を抱きしめるのが、大好きなんだ。
リュウ: 本当?
アデル: そうさ。 来てよ。
リュウがアデルの腕の中に興奮しながら跳び込むと、アデルはしっかりとリュウを抱きしめて、リュウの耳の後ろを撫でた。
リュウ: うぅーっん、、、あなたは暖かいですね。 これって、あなたにも、役立っていますか? なんだか、あなたの為というよりは、わたしにいい事のように思えますが。
リュウがアデルの胸に鼻を押し付けると、アデルは微笑んだ。
アデル: 役に立ってるよ。
ショート・ストーリー第4巻、終了です。
まだまだ続きます!
本エピソードのイラスト委託作成:
Miyumon
Catnappe143
Atomic-Clover
「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。